ニューロンと跳躍伝導 [2018-02-28]

ふと脳神経に興味を持ち、ちょっと勉強してみています。 神経細胞(ニューロン)で電気信号の伝わるメカニズムが面白かったので、まとめてみます。

ニューロンの構造

https://img.kango-roo.com/upload/images/scio/kaibo-seiri/178-206/z8-2.png

画像は https://www.kango-roo.com/sn/k/view/1718 より引用

ニューロンは上図のような構造をしています。樹状突起に別のニューロンの興奮状態が入力され、その加算値が閾値を超えるとニューロンが興奮します。するとその興奮状態が電気信号となって軸索を伝わり、軸索終末からシナプスを介して次のニューロンに興奮が伝達されます。

…ていうのは、なんとなく知っている人が多いんじゃないかと思います。

この記事で取り上げるのは、軸索を電気信号が伝わるメカニズムです。 ざっくり書くと

  • 普通の電気回路で導線を電気が伝わる仕組みとは全然メカニズムが違います。
  • 細胞の内外は様々なイオンが溶け込んだ電解液になっていて、イオンの移動によって電気信号が伝導します。
  • 軸索の周りに髄鞘(ミエリン鞘)が巻きついているのが大きなポイントです。これにより跳躍伝導というメカニズムが働き、非常に高速に電気信号が伝わります。

この跳躍伝導のメカニズムを私なりに整理してみました。

※ ただし私は所詮はシロート。間違っているかもしれないので疑って読んで下さい。

静止膜電位

ここで説明する静止膜電位というのは、ニューロンに限らず人体の細胞全般に共通の内容となります。

参考: 静止膜電位をできるだけ分かりやすく説明してみた

細胞膜はコンデンサ

細胞というのは、細胞膜を挟んで下図のような電位差を作り出す仕組みがあります。

../_images/2018-02-28-potential.png

細胞の内側全体が負の電位になっているわけではなく、細胞膜のごく近傍だけで図のような分極状態が作り出されています。

電位差が生まれる仕組みはともかく(これから説明します)、細胞膜という絶縁体を挟んで分極している状態はまさにコンデンサといえるのではないでしょうか。 この分極のことを静止膜電位といいます。

跳躍伝導では、この細胞膜によるコンデンサが重要な役割を果たしています。

ナトリウムポンプという電池

膜電位が生まれるということは、細胞膜という絶縁体に電圧をかけている電池のような仕組みがどこかにあるはずです。それについて説明していきます。

../_images/2018-02-28-battery.png

この電池の役割を果たす仕掛けの要点は次の2つです。

  • ナトリウムポンプ
  • カリウム漏洩チャネル

ナトリウムポンプとは

正確には Na+/K+-ATPアーゼというらしいです。 これは YouTube で見つけた動画が分かりやすかったので見てみてください。 https://www.youtube.com/watch?v=af8LQFMf0Oo

  • 細胞内のミトコンドリアが糖を分解してATP(アデノシン三リン酸)を生成する
  • ナトリウムポンプはATPを分解して得られるエネルギーを消費して動く
  • 細胞内の3個の Na+ をくみ出し、細胞外の2個の K+ を取り込む

Na+ 3個と K+ 2個を交換していますから、これで電位差が説明できる…と思っちゃいますよね。残念ながら話はそう単純ではないらしいのです。

なんと塩素イオン Cl- は細胞膜を比較的自由に透過できるのだそうです(理由は私には分かりません、すいません)。従って、ナトリウムポンプによって生み出された電位差に引き寄せられて、細胞内の Cl- は外に染み出していってしまいます。これによってナトリウムポンプが生み出した電位差はキャンセルされてしまうため、この時点では内外の電位差はありません。

以上をまとめると、これらの仕組みによって細胞の内外では次のようなイオンの濃度差が生まれます。

イオン 細胞内 細胞外
Na+ 薄い 濃い
Cl- 薄い 濃い
K+ 濃い 薄い

NaCl は塩ですから、細胞外の方がしょっぱいってことですね。太古の昔、生命は海から生まれたといいますから、必然的に塩分を利用する仕組みに進化したのでしょう。ロマンを感じます。

カリウム漏洩チャネル

Naポンプによってイオンの濃度差が生まれることが分かりました。しかしそれだけでは膜電位は生じません。ここにカリウム漏洩チャネルという仕掛けが加わることによって膜電位が生まれるのです。

カリウム漏洩チャネルというのは常に開きっぱなしのチャネルで、常時カリウムイオン K+ だけが自由に出入りできるようになっています。自由に出入りできるとなると、当然ながら濃度が濃い方から薄い方へ出ていくことのほうが多くなります。つまりマクロに見ると、カリウムイオンが内側から外側に流れ出していくことになります。

陽イオンだけが流れ出していきますから、電位差が生まれます。これが静止膜電位です。

跳躍伝導

さて、いよいよ本題の跳躍伝導の話に入っていきます。

髄鞘とランビエ紋輪

冒頭のニューロンの図を見ると、軸索に髄鞘(ミエリン鞘)とかいう変な奴が巻き付いていますね。髄鞘は軸索全体を覆っているわけではなく、飛び飛びにくびれがあります。このくびれのことをランビエ絞輪といいます。

電気信号は、このランビエ絞輪を飛び飛びに「跳躍するように」伝導していきます。この仕組みによって非常に高速に信号を伝導することができるのです。

髄鞘は単なる絶縁体、カギとなるのはランビエ絞輪

跳躍伝導について調べると、「髄鞘が巻き付いているために高速に伝導できる」といったような記述を見かけます。これだけ読むと「髄鞘というやつに何か特別な仕掛けがあるに違いない」と思いませんか?私は思いました。

しかし、髄鞘には何の仕掛けもない、ただの絶縁体です。単に軸索に巻かれた絶縁チューブに過ぎません。カギは髄鞘ではなくランビエ絞輪にあります。ランビエ絞輪は髄鞘がくびれていて細胞膜が剥き出しになっています。その細胞膜に仕掛けがあるのです。

ナトリウムチャネルというトランジスタ

その仕掛けがナトリウムチャネルというものです。より正確には、電位依存性ナトリウムチャネルといいます。ランビエ絞輪で剥き出しになった細胞膜には、このナトリウムチャネルという仕掛けが備わっているのです。

私は、この電位依存性チャネルという仕組みはトランジスタの性質とよく似ていると思いました。完全に同じではありませんが、ある程度はトランジスタのアナロジーで特性を捉えられると思っています。(しかし「ナトリウムチャネル トランジスタ」でググっても似たような説明は見つかりませんでした。私の理解が間違っている可能性も十分考えられますので、以下は疑って読んでください。)

電位依存性ナトリウムチャネルは次のように動作します。

  1. 平常時は細胞膜は静止膜電位で分極していて、ナトリウムチャネルは閉じています。
  2. 外からの刺激によって静止膜電位が変化すると(分極がある閾値以上ゆるむと)、ナトリウムチャネルが開きます。
  3. Na+ は外側の方が高濃度になっていますから、チャネルが開くと Na+ イオンが外から細胞内(軸索内)に向かって一気に流れ込みます。陽イオンが流れ込んできますから、静止膜電位による分極状態は一気に解消され(脱分極)、勢い余ってオーバーシュート(過分極)します。

ダムになぞらえると、外部からの刺激を受けると水門が開いてダバーッと Na+ が流れ込んでくるイメージですね。これは、検知したわずかな電位差を増幅する回路になっていると考えられます。つまりトランジスタと同じ効果を持っていると思いませんか。

ナトリウムチャネルについてはこちらのページのアニメーションが分かりやすかったです。 https://gozasso.com/kikkenlab/024-voltage-dependent-sodium-channel/

正確には上記ページのアニメーションにあるようにゲートが2つあるイメージで、Na+ イオンがある程度流れ込むと2つ目のゲートが閉じてしまってしばらくの間は不活性状態になるようです。この点はトランジスタとは異なっています。しかしここでは、「ナトリウムチャネルはトランジスタだ」と大雑把にとらえて次に進みましょう。

跳躍伝導の回路

ランビエ絞輪では細胞膜がむき出しになっています。その細胞膜には Na+ ポンプ、K+ 漏洩チャネル、電位依存性 Na+ チャネルが備わっています。これらを全てつなげた回路図を書くと次のようになるのではないか、と私は考えました。(合っているかな…?実のところ電気回路は全く得意ではない…)

../_images/2018-02-28-circuit1.png

単純化のため細胞外の電位を基準(ゼロ)として、細胞内の(負の)電位の変動を考察できる回路としました。

  1. 平常時は Vin も Vout も静止膜電位です。従ってトランジスタ(=ナトリウムチャネル)のベースとエミッタの間に電位差はなく、コレクタからエミッタへは電流は流れません。従ってコンデンサ(=細胞膜)は静止膜電位で分極した状態です。
  2. Vin の電位がある閾値以上に上がると、トランジスタのコレクタからエミッタに向かって電流が一気に流れます。その結果、コンデンサは脱分極あるいは過分極を起こし、Vout はゼロまたは正の電位に変化します。
  3. トランジスタのベース-エミッタ間の電位が反転してしまうので、トランジスタには電流が流れなくなります。従って再びコンデンサに電荷が溜まり、静止膜電位の状態に戻ります。

…書きながら怪しい気がしてきました。この通りの回路を組んでも思った通りには動かない気がします。まあ、跳躍伝導を再現する正確な回路を作ることが目的ではなく、理解するためのモデルだと思って!

さあ、このランビエ絞輪の回路を髄鞘で繋げていきましょう。髄鞘は単なる絶縁チューブに過ぎないと書きました。ですから電解液という単なる導体で回路を繋げばよいはず。

../_images/2018-02-28-circuit2.png

どうでしょうか、信号がランビエ絞輪を跳躍するように伝わっていく様子がイメージできましたでしょうか。

学んでみた感想

  • え?マジでこんなすげぇピタゴラ装置が自分の体の中で動いてんの?すげぇ…
  • 生物ってアナログな仕組みだと思っていたけど、これデジタル回路だ…